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【舘内レポート】溶け出す、からだ

今日は10月6日。日曜日だということはしばらくして知ったのだが、どうも休みの気がしない。えっ、旅なんて毎日休日なんだろうって? そういわれても返す言葉がない。旅は楽しい。その上、大好きなEVに乗れる。しかも2種類のEVだ。ということで、本日はアウトランダーPHEVでお出かけだ。

数々の過酷なテストをへて生産されるカーメーカー製のEVであるアウトランダーPHEV。かたや世界に1台しかない手作りEVのEVスーパーセブン。この2台をくらべることが良いかどうかはひとまずおくとして、それぞれの特長と違いを記しておくのも、自動車評論家の私の責務かもしれない。

上出来なのは、いわずもがなのアウトランダーPHEVだ。乗り心地も静粛性も操作性も信頼感も、EVスーパーセブンとはくらべものにならない。とにかく運転が楽である。その結果、ラジオを聴きたくなったり、ネットで遊びたくなる。つまり、運転に割く集中力と体力が少なくてすむので、なんだかからだが暇になってしまうのだ。ああ、だから乗用車は“走るリビング”だなどと呼ばれ、カーオーディオから始まって、さまざまな遊び道具、アイテムが室内に持ち込まれるようになったのだと、私は妙なことに気づいてしまった。

一方、EVスーパーセブンは運転に神経を使うのではなく、運転に夢中になってしまう。自分がクルマに溶け込んでいくのがわかる。にゅるにゅるとからだが溶け出して、EVスーパーセブンのタイヤに、サスペンションに、ボディに、モーターに、インバーターに、電池に、隙間を見つけて、入り込んでいくのだ。まるでアメーバーのように。両手は前輪になって路面をつかみ、両足は後輪になってモーターの力を地面に伝える。心臓はモーターになり、血管は配線ケーブルになってモーターになった心臓に電気を送るのだ。

私とEVスーパーセブンに激しい交歓が起こり、私がEVスーパーセブンで、セブンが私であるという神秘的な状態が現れる。宗教でいうところのフィエロファニー。つまり神との一体感である。フッフッフ。

しかし、こうした一体感は日常的なもので、どこにでもある。別に不思議なことではない。たとえば、母と子どもは強い一体感で結ばれている。子どもが転べば、母親は自分のからだが痛む。双子の兄弟は、兄が熱を出せば、弟も熱を出す。こうした一体感を世界に広げて、世界が病むとき、自分も病む特別な人間を、かつては呪術師、シャーマンと呼んでいた。彼らにとっては、あらゆる生命ばかりか、山川草木も自分のからだの一部なのだ。あらゆる自然と強い絆を結べて、初めて呪術師になれる。そして、呪術師こそ魂を鎮める人たちなのだ。ということを、EVスーパーセブンは私に教えてくれる。人間が本来の人間になれるクルマである。

アウトランダーPHEVは、三菱自動車の生産する自動車の中で、i-MiEVを除いて、もっとも良いクルマである。また、世の中に数あるSUVの中で、ポルシェ・カイエンに並んでもっとも優れている。もっともCO2排出量では圧倒的にアウトランダーPHEVが少ないので、昨今の環境保護的価値観からいえば、アウトランダーPHEVの勝ちだ。

なぜ優れているかというと、ハイブリッドではなくEVだと強く宣言しているからだ。エンブレムを良く見ると、PHよりもEVの文字のほうが大きいのが、その証拠だ。
アウトランダーPHEVは、モーターだけで、あるいはエンジンは発電しつつモーターとで、さらにエンジンもモーターも駆動してと、いろいろな方式でタイヤに動力を伝える。

しかし、基本的にはモーターの力だけをタイヤに伝える。それが、アウトランダーPHEVを天下一品のSUVに仕立てている。動力は、エンジンよりもモーターの方がずっと上品だからだ。たとえエンジンを使うにしても、世にあるハイブリッド車のようにエンジンが直接にタイヤを駆動するのではなく、エンジンで発電した電気でモーターを回して、その力でタイヤを駆動する。だから、発進、加速がスムーズで、振動が少なく、高級車としての資質を持っているのである。

アウトランダーPHEVのモーターとインバターをEVスーパーセブンに移植したら……。とんでもなく素晴らしいスポーツカーが出現するに違いない。いや、いや。i-MiEVのモーターとインバーターでも、世界最高のスポーツカーになること請け合いである。

あしたは、津波のことをいろいろと書こう。

私たちは、故郷の山や川や町並みと一体になることで、私を確認する。それがふるさとの役目であり、素晴らしい力だ。それを津波にさらわれた時、私たちはどうしてよいかわからなくなる。

道路や建物は一部、復興しつつある。それらは時間とお金をかければ復興可能だろう。しかし、さまよう魂は復興予算では鎮められない。さまよう魂を救うには、その人と一体になって、苦しみや悲しみを共有するしかない。だが、私にはそんな力はない。せめて鎮魂歌=レクイエムでも詠おう。

(舘内 端)

 

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