ポスト・EVシフトに向かって

日本EVクラブ代表理事 舘内 端

20世紀の負の遺産 ロシアの横暴

コロナ禍も終わらないうちに、今度はロシア軍のウクライナへの侵攻です。まるで戦前の帝国主義丸出しのやり方に、驚くと同時に「人間は少しも進歩なんかしていないのだ」と、ひどく落胆しました。 

地球温暖化・気候変動が私の問題であるように、ロシアの侵攻も私の問題です。すぐにでもウクライナに行って、民兵さんへの炊き出しでも手伝いたいとは思うのですが、寄る年波にからだは動かず、歯ぎしりするばかりです。

振り向けば地球温暖化・気候変動

そして振り向けば地球温暖化・気候変動の激化です。急激なEVシフトでは日本国内で550万人の自動車労働者に雇用不安が生まれるから、もう少しゆっくりやれとの自動車工業会の意見もありますが、IPCCによれば「ここ10年のCO2削減が地球温暖化・気候変動を止めるために極めて重要」なのです。早急なEVシフトが必要です。

地球温暖化・気候変動による生存の危機にさらされるのは550万人の自動車労働者ばかりか、2025年に80億人と推計される地球の人間すべてです。そして深刻な被害に遇うのは自動車も買えない貧しい人々です。CO2ゼロに猶予はありません。

リッター200円超のガソリン価格

世界的なゼロ・カーボンの流れを受けて新規の石油施設の建設にストップがかかり、今後、石油の生産は急速に減退し、価格は上昇すると考えられます。そこにロシアの侵攻が重なり、世界第3位の生産量を誇るロシア産石油の不買運動が始まりました。ガソリン価格がリッター200円を超えるのは目前です。石油エネルギーを使う限り、自動車だけではなく、私たちは生活全般に厳しい対応を迫られるでしょう。

世界第3位の石油生産国であるロシアからの輸入を止めるとなると、石油の中東依存度はますます高まり、エネルギーは再び地政学的リスクを抱えることになります。

一方、日本の石油、石炭、天然ガスの輸入代金は20数兆円です。再生可能エネルギーを推進すれば、20数兆円の資金は流出せずに国内を循環させることができ、経済は上向き、脱CO2事業や福祉、教育、文化に回すことで日本の生活の質は大きく向上します。脱石油は将来に大きな夢を描けるのです。

20世紀の負債

私たちは化石燃料による莫大なエネルギーを手に入れ、それを背景に巨大な大量生産・大量消費文明を作り、物質的に豊かな生活を(一部の人たちが)享受することができました。これが20世紀の文明であり、その主役の一人が自動車でした。まさに20世紀は「石油と自動車」の文明であり、これこそ文明の本質だったのです。

そして20世紀の「石油と自動車」の文明は、自然環境の破壊を通じてコロナ禍を招き、海面を上昇させ、数多くの負債を21世紀に生きる私たちに残しました。20世紀の負の遺産である大量生産・大量消費・大量廃棄、これらを可能にした石油に代表される化石エネルギーの大量消費による環境破壊。こうした20世紀の負債を子供たちに引き継がせるわけにはいきません。

ポスト・EVシフト=EV普及後の自動車社会

20世紀の負の遺産を清算すべく起きた大きな胎動のひとつが、自動車の脱CO2化=EVシフトです。そこに向かって世界の自動車メーカーは動き出しました。2030年近傍では、ほとんどの自動車メーカーがエンジン車よりも多くのEVを販売することになるでしょう。EVは私たちが黙っていても普及します。もし、普及に失敗すれば自動車そのものが生き延びられないからです。

EVが普及さえすれば20世紀の負の遺産は清算できるでしょうか。残念ながら、現在のエンジン車の形態(大きさ、性能)、使い方、生産・販売方法のままでは、地球環境は守れず、地球温暖化・気候変動は止まりません。私たちは生活の方法、在り方を大きく変え、自動車の価値観を21世紀型に改めなければなりません。EV普及後の自動車社会=ポスト・EVシフト社会の構築です。

欲望刺激型自動車からの脱皮

20世紀は、莫大な石油資源を背景にした欲望拡大型文明だったと言えるでしょう。そこにあった価値観は「より速く、より遠くへ、より快適に」です。自動車はそのためにより大きなエンジンを搭載し、高速でもより安定して走れるようにサスペンションを改良し、より乗り心地の良い高剛性のボディになるように技術を開発しました。自動車技術の向かった方向は欲望の拡大であり、それを「技術の進歩」によって可能にしたのです。その結果が地球温暖化・気候変動です。

2021年11月に開催した第27回日本EVフェスティバルの基調講演は、北海道大学の橋本努教授にお願いしました。演題は「ロスト欲望社会〜エコ・ミニマリズムのすすめ」でした。

橋本教授の講演を受けて述べれば、「欲望の向かう先を変える」ことができれば、私たちは環境を守りつつ十分に満足できる生活が可能だということです。問題は「何に、どう満足するか」です。私たちは自動車を持続可能なモビリティにするために、自動車に対する「欲望の形」を変えようではありませんか。

EV未来プロジェクト「百万台EVプロジェクト」

そうした問題意識の下に、21世紀にふさわしい欲望の形で、みんながいつまでも愛せる21世紀にふさわしい愛車を作ろうというのが、日本EVクラブが進める「百万台EVプロジェクト」です。オンラインミーティングですから、誰でもご参加いただけます。どんなクルマにするか。いろいろな意見を出し合いましよう。

私としてはVWビートル、シトロエン2CV、ローバー・ミニ、フィアット500のような世界中の人々から愛され、長い間モデルチェンジもせず、性能アップもほどほどに、生活に密着した形態で生産期間が長いEVがいいと思います。 

また、可能であればスイスのツェルマットのEVのように、村や町の小さな工場で、必要な数だけ作る地産地消型のEVが良いと思います。そして、いつの日か調べてみたら100万台も生産していたと、そんなEVです。

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