EVトークショー「気候変動・自動車・音楽」

音楽プロデューサー 松任谷 正隆 × 日本EVクラブ代表理事 舘内 端


松任谷 正隆(まつとうや まさたか) プロフィール
作曲/編曲家、プロデューサーとして数多くのアーティストの作品に携わる。BS朝日「カーグラフィックTV」のキャスター、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」選考委員を務める。


新型コロナとモータースポーツ

舘内 いま我々が直面している危機のひとつであるコロナ、それと音楽、コロナと自動車、自動車と音楽みたいな話になればいいんですけど。最初に僕がコロナと自動車について話したいと思います。
先日、松任谷さんと千葉の某サーキットでお会いして、日本カー・オブ・ザ・イヤーの10ベスト(※最終選考に進む上位10台)の試乗会だったんですけど、松任谷さんは選考委員、僕はトシなんで評議委員です。みなさんとは久しぶりに会うし、ピカピカの1,000万円以上の新型車を走らせて普通ならワクワクもするんですが、今回はあまり近くに寄っていろいろな話ができなくて、寂しかった。やっぱりコロナの影響があるんですね。
僕はレース育ちだからレース関係のことも気になりますね。相当に影響がある。トヨタ系のチームは、スタッフもメカニックもみんながPCR検査をやって、しかも無観客。観客のいないレースって何だろうとちょっと考えちゃって、これじゃあ成り立たないなと。モータースポーツも変わらざるを得ないのかなと思うと寂しいですね。
音楽のほうはどうですか。

松任谷 集まれなくなりましたよね。バンドもダメだし、ライブハウスもダメで、配信が始まりましたよね。そこに3,000円も4,000円も払うというね。テレビも、ライブのほうが説得力が出せるせいか、ライブ番組が増えていますよね。

舘内 テレビで無観客のライブ?

松任谷 次の紅白歌合戦も無観客になるじゃないですか。それでもライブですから。ライブが求められているような感じがしますよね。家で紅白を見るのは以前と変わらないけど、出場者たちにとっては雰囲気が違います。この半年以上、無観客ライブをやっているわけだから、見る方もやる方もこの状況に少し慣れてきているような気がしますよね。

舘内 音楽をやる方にとっては、観客は重要なんですか?

松任谷 音楽はライブから始まったじゃないですか。クラシックの時代があって、エジソンが出てきてレコードが出てきて、それで今のようになった。

舘内 ちょっと勉強したの。昔は室内楽、王様の前で音楽を聴かせていたのが、交響曲(シンフォニー)が生まれて劇場ができてコンサートになった。そこからポピュラー音楽も生まれてきた。ジャズはどうなんですかね。

松任谷 いや、歴史的なことはそんなに詳しくないので。似たようなもんじゃないですか。でも、ラップが生まれてきた経緯は知っているんですよ。お金のない人たちが、いわゆるサンプリング音楽(※過去の音源を一部流用・再構築して新たに作ったもの)に合わせてトークをする、メッセージを言うみたいなのは大昔からあったんですね。カントリーもね、舘内さんがよく知っている人だとジョニー・キャッシュとかそういう時代からあったんですよ。

舘内 ディスカバリーの試乗でオーストラリアに行ったとき、山の中にある牧場でバーベキューをやったんですけどね、そこにカントリーバンドが出てきて演奏したの。ああ、カントリーはこうやって聴くものなんだと感動しちゃった。

松任谷 海外をレンタカー借りて走ったり、試乗会で走ったりするでしょ。国によって聴きたくなるものが変わりますよね。

舘内 そうそう。オーストラリアのときも、ちゃんとシチュエーションを作ってくれていたということですよね。

松任谷 あのー、今日こんなことずっと話していいんですかね。

会場 (笑)

舘内 とりあえず、いま言いかけたことを。

松任谷 言いかけたことは、もう忘れちゃいました(笑)。最近、5秒で忘れますね。

舘内 まだいいほうです。僕は話しながら忘れちゃう(笑)。

松任谷 でも、忘れることは大切ですよ。忘れないで変な上書きするのがいちばんよくない。

舘内 忘れてゼロにする。

EV普及は人間としてやらなきゃいけないこと

松任谷 舘内さんが、EVを始めたのっていつですか。

舘内 ’92年10月に日本橋から鈴鹿サーキットまで歩いて(※大気汚染防止を訴えて日本橋から鈴鹿サーキットまでの470kmを2週間かけて歩いた)、そこでF1の解説して帰ってきたら、僕と同じ時代にレーシングカーを作っていた小野昌朗さんという人から連絡があって、東京電力の「IZA」という電気自動車に乗れと言われましてね。乗って魂抜かれました。それがEVとの本当の出会い。

松任谷 速かった?

舘内 けっこう速くて170、180キロくらい出るんですよ。某所で試乗したんですけど、いつも150キロぐらいで走るところを軽く170、180キロで走った。すぅ~と走っちゃうのがたまらなくて「こんなものは現実じゃない」と、ものすごくショックを受けた。そこから27、8年経ちますね。

松任谷 あの頃、EVがメジャーに躍り出るって思っていらっしゃいましたか?

舘内 全然思っていません。ですが、’94にアメリカのディズニーランドで開催された電気自動車のシンポジウムに行ったんですよ。電気自動車がたくさん出てきて、アメリカが「行くぞー!」みたいな感じだったから、もしかしらという気もしましたね。それよりも電友1号(※’93年に製作した日本初のEVフォーミュラカー。日本EVクラブ設立のきっかけになった)に乗って、これはヤバいな、人間変えちゃうな、そっちに行っちゃうなというのが肌感覚でわかりましたね。それがショックだった。

松任谷 実は僕はクルマの番組(※カーグラフィックTV)を30年ぐらいやっていましてね、あるとき初代テスラを借りる借りないという話になったんですよ。でも、借りても電気が入れられないから返せないみたいな。それが僕、つい最近だったような気がするんだけど。

舘内 そんなに古くはないですね。

松任谷 古くないですよね。電気自動車はまだまだなのかなって思って、それから10年も経ってない。テスラがモデルSを出したときも、こんなになるとは思わなかったかもしれない。

舘内 ’92年からEVに関わってきた僕がいちばん驚いているんですよ。ただね、地球の問題、環境の問題、エネルギーの問題を考えると、エンジン車のまんまいけば何かがきっとぶっ壊れちゃうんだろうなという気がしてた。社会システムか人間の健康か、エネルギー問題か、とにかく世界が壊れる。だからもし、人類がそういう状況になるのが嫌だと思うなら、今の技術を考えるとEVを選ぶしかないとわりと早くから気づいてたの。

松任谷 代替燃料とかなかったんですかね。

舘内 代替燃料のエンジン……。電友1号に乗っちゃったら、全然こっちのほうが速くて快適でレスポンスはいいしで、エンジンはないかなと思った。

松任谷 だから30年近くEVをメジャーにしようという運動を孤軍奮闘やってきたわけですよね。ここまで来たら、やることなくなっちゃったでしょ。

舘内 よくわかりますね!

会場 (爆笑)

舘内 EV普及活動は、人間としてやらなきゃいけない僕の理性的な部分なんですよ。だけど人間はそれだけじゃ生きてられなくて、もっと深いところで野生の部分を活性化していかないと何で生きているのかわからなくなっちゃうし、面白くない。それらが融合したところでバランスを上手く取れないかなと思ってきたのがEVクラブ。EVクラブは速いクルマとか、いちばん遠くまで走っちゃうクルマとか、レースとかで”からだの中”を活性化する。排ガスを出さない、化石燃料を使わない持続可能な野生ですかね。そんなふうに活性化してきているので、それはそのまま持続かなと。しかし、EVは日本では真剣に普及に取り組まないと広がらない。ヨーロッパ、中国、アメリカはどんどん新しいのを出してきているので普及せざるを得ないんですけどね‥。

松任谷 エンジン車はもう作れないみたいな。

舘内 新しいエンジンに投資できないですもんね。

気候変動問題で世界地図が今度こそ変わる?

松任谷 すごいなと思ったのは、コロナでこんなになっているのに政府が2030年代なか頃までにガソリン車の販売をやめると打ち出してきたでしょ。僕にはその背景がよくわかりませんけど、よほど大気汚染問題が深刻なのかなと思って。

舘内 そうなんですよ。今回の基調講演の木本先生のお話を聞くと、やっぱり人類に理性があったんだなと思うの。’97年に京都議定書が出て、ついこの間パリ協定が批准されてやっぱり動きましたね。ちょっと昔の話をすると、令和のコロナと気候変動の問題を作っちゃったのは近代文明で、技術を生み育て、石油を発見し、自動車につながる。今の気候変動の問題は技術で何とかしなきゃいけない。そういう考え方がヨーロッパから出てくるだろうと思っていたんです。

松任谷 向こうはわりと長期的な考え方のできる人が多いんですね。

舘内 そうですね。アジアは神楽を踊って雨乞いしたりするでしょ。悪くはないけれど、自然とともに生活してきた文明だから技術で何とかしようとはあまり考えないんですよね。

松任谷 コロナは一過性かもしれない。気候変動のほうがよほど怖いという気がしました。

舘内 コロナはワクチンを打って解決するという、これも科学技術で、ヨーロッパがウイルス問題を解決するという道筋がよく見えますけど、気候変動は全地球規模なので、理性的に全部やれるかというとちょっとわからないぞ、と思います。現代の科学的な考え方や資本主義のままではうまく収められない。

松任谷 コロナが起こったときにわりと世界は手を結ぶのか、その逆なのかどっちなのかと思っていたら、あまり手を結んでいる感じがないですよね。

舘内 中国は中国ワクチン、ロシアはロシアワクチン、みんなバラバラにワクチン作って、俺のワクチンが偉いみたいな。

松任谷 でも気候変動はそんなこと言っていられないですよね。世界地図が今度こそ変わるのかな。

舘内 コロナが出てきたことで気候変動を何とかしようという気運が生まれたような気がしないでもない。ヤバいというね。人類の生命が危機にさらされている。アメリカやヨーロッパはとんでもない感染者数でしょう。それが非常に強い危機意識として、今回出てきたのかな。ただ、コロナの前からヨーロッパは相当気候変動に対する危機意識があったので、それも少し違うような気がしますけど。

松任谷 なんでですかね。ヨーロッパはなぜ気候変動に敏感なんですかね。日本は、大半の人がもうちょっと大丈夫だろうぐらいに思っているんじゃないですか。

舘内 もうちょっとしたら雨乞いをやりましょうみたいな(笑)。日本は台風や洪水で少し気づくんですけど、アメリカは森林火災や水がなくなっちゃうとか、ヨーロッパは熱波、それから氷河がどんどん溶けていくとか、気候変動や温暖化が見えるんですね。日本は温暖化が見えず、台風が来るとそれは台風だからでやり過ごしちゃう。平地が多いヨーロッパで洪水になると、あの水は1ヶ月くらい引かないですよ。見る自然が違うのと、近代主義の中で科学者たちがいろいろ言うことを受け止められるものを市民が持っていたということだと思います。

コロナ禍と気候変動の原因は一緒

松任谷 これから先の世界はどうなっていくと思います?

舘内 こうやって私はいつも質問攻めにあう…(笑)。

松任谷 基本、僕はインタビュアーですよ。舘内さんが面白い話をするのが悪いんです(笑)。

舘内 質問何でしたっけ。

松任谷 何でしたっけ。だから5秒経つと忘れちゃうって。

会場 (爆笑)

松任谷 あ、だから、どういう時代になるか。

舘内 未来か。あんまり明るいとは思わないです。気候変動はすぐには止まらない。CO2の増加もそう簡単には止まらない。

松任谷 気候変動の原因ってCO2だけですか。

舘内 一番はCO2で、ほかにはメタンとかも原因になりますよ。

松任谷 (うなずきながら)では、コロナウイルスって知性があると思います? ないと思います?

舘内 僕は火星と月にコロナウイルスはないような気がするけど、探査に行って拾ってきた石からウイルスが出たとしても不思議ではないですよね。この間の新聞記事には、海底から1,200mくらい掘って、120℃くらいの温度のところで生きている微生物を発見したという記事が載っていましたけど、もっと熱い地球の深部に近いところで生きられる細菌もいるんじゃないかと。そうしたことができたのは、ウイルスに知性があるからだと思わないでもない。
それを掘り出しちゃったのは近代文明なんですよ。森を拓いて川を潰して畑にして、地面を掘って石油を出して石炭もコロナウイルスも掘り起こしちゃったみたいな。

松任谷 舘内さん、説得力ありますよ。すごく響いた。

舘内 コロナウイルスと気候変動って、たぶん原因は一緒なんですよ。ジャレド・ダイアモンドが書いた『銃・病原菌・鉄』という有名な本があって、鉄砲と病原菌と鉄、この3つを手に入れた種族が生き残ったという話なんです。たとえばメキシコのマヤを、たった30人ほどのスペイン人で征服しちゃった。それはスペイン人たちが持っていた細菌のせいなんですよ。免疫を持っていないマヤの人々はいっぺんに死んでしまった。細菌に対する免疫を持っているという人たちが地球を征服するわけです。それはどうしてかと言うと、西洋の人たちが家畜を飼ったせいなんですね。家畜にした野生の豚や牛や鳥は病原菌をいっぱい持っているから、いつの間にか(かかって)免疫ができちゃう。マヤに家畜を持ち込んだスペイン人のほうは平気だったが、免疫のないマヤの人たちは死んでしまった。
同様に、ウイルスが生まれたのもまさに文明の問題でしょう。気候変動だって、石炭や石油を掘ってガンガン燃やして起きた、まさに文明の話なんですね。

松任谷 共通点だらけですね。

舘内 だから、こういう生き方をやめないといけないと偉い人は言うんですけど、身についちゃったからね。

松任谷 どうします?

舘内 野人に戻る(笑)。

寂しがり屋のひとり好き

松任谷 リモートなんかをやりながら、僕の仕事なんてどこでもできるなと思いましたよ。

舘内 今回のコロナで、大きなコンサートやライブができないけど、実はリモートがあった。個人で音楽を楽しむという技術が用意されていたんですよね。

松任谷 願望もありましたよね、きっと。昔は貴族や貴族の友だちぐらいしか音楽を楽しめなかったでしょう。一般の人たちは聴きたくても聴けなかった。願望は必ずあったと思います。

舘内 個人に還元されていくということがこの文明のスタイルなんですよ。個人個人バラバラにすれば、家族の人数分だけテレビが売れるといういわゆる商業主義ですね。そういう資本主義の中で、人はどんどん個別にされてきちゃった。

松任谷 それはそれで楽ですからね。

舘内 でもたまには集まりたくないですか?

松任谷 それがコンサートでありスポーツ観戦であり、あれは人間の欲求の名残ですよね。

舘内 それを上手く使ったのがヒトラーですね。

松任谷 そこに行きますか(笑)。

舘内 俺たちはドイツだ!って。オリンピックもまさにそうですよ。ワクワクするのが許されていて、みんなで集まろう。人間は集まってひとりじゃないことを確認しつつ、ひとりで楽しむものがあるという、そのバランスが大事なんじゃないですか。

松任谷 寂しがり屋のひとり好き。そんな言葉がありますけど、言い得てますね。

舘内 松任谷さんはどうですか?

松任谷 それですよ。

舘内 僕もなんです。ひとりが嫌でみんなと集まるんだけど、嫌になって先に帰っちゃたりね(笑)。

松任谷 でも、それはいちばん研究しなければいけないポイントだと思うんです。いま、若い人たちの自殺が多いじゃないですか。大きな理由はここにあるような気がします。

舘内 バラバラにされちゃって、拠り所がなくなって、自分をサポートしてくれる人がまわりにいなくなれば人間イヤになる。

松任谷 自信もなくなるしね。

舘内 なんで生きているのかわからなくなっちゃうんです。でもそうやってバラバラにしてお金儲けしているのが情報技術。コロナでもみんなで集まれるような情報技術を作ればいいんじゃないかな。
では最後に今日の感想を。

松任谷 いま、いちばんいろいろなことを吸収しなくちゃいけない時期のような気がする。とにかくいちばんいろいろなものの真実が見えてる時だと思う。

舘内 今日はどちらがゲストだかわからなくなっちゃった(笑)。ありがとうございました。

(了)

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