プロローグその2
「EVシフトは、トヨタのハイブリッド車つぶしか?」

EVシフトは、トヨタのハイブリッド車つぶしか? text:舘内端

日本の自動車産業の拡大と米国との軋轢
まずは、国内自動車メーカーの国内外の自動車生産台数をご存じだろうか。これを知ると、国内向けの新型車が貧弱なわけと、世界で日本の自動車つぶしが起きてもおかしくないことがわかる。そして、今回のEVシフトにも納得がいく。

上記の自動車生産台数は、
1.1000万台である
2.1500万台である
3.2700万台である
さて、何番をお選びだろうか。
1000万台は80年代の話だ。日本が一時、世界一の自動車生産台数を誇ったときである。
それで、何が起きたか。
70年代の2度のオイルショックを経て、大型で燃費の悪い乗用車を主に生産していた米国のビッグスリーは急激に衰退し、米国自動車メーカーが集中するデトロイトは荒廃していった。一方、小型で燃費が良く、品質に優れた日本車はプレミアが付くほどに売れまくった。やがて日米自動車摩擦が起き、日本車の打ち壊し運動が始まり、日本は自動車の輸出自主規制を行わざるを得なくなった。しかし、まだヨーロッパとの自動車摩擦は起きてはいなかった。

米国自動車産業の苦境を見かねた当時の大統領レーガン氏は、ビッグスリーのトップを引き連れて来日し、日本憎しと日本市場に米国車への開国を迫った。黒船の再来であった。
こうした米国の圧力の元、日本の自動車メーカーは米国に工場を建設し、生産を始める。それだけではおさまらなかった。やがて部品の米国内生産が強制される。ローカルコンテンツである。
オイルショックは、大型車中心で燃費の悪かった米国ビッグスリーを苦境に追い込んだ。これを現代流に言えば、CO2排出量の多い自動車が苦境に追い込まれるということである。
ここに排ガス規制が重なった。大気汚染が現在の中国の主都市のように酷かったカリフォルニア州が起点となって、世界一厳しい排ガス規制が登場した。規制を推進したマスキー上院議員の名前を取って「マスキー法」と呼ばれたこの規制をクリアーできる米国メーカーは皆無であった。だが、ここにホンダのCVCCと呼ばれたクリーンエンジンが登場し、見事に規制値をクリアーしたのだ。
CVCCの登場を機に米国の排ガス規制は一気に強まり、ビッグスリーはV8エンジンの2気筒を切断してV6エンジンを生産するといった方法で対処するしかなく、崩壊寸前まで追い込まれ、「日本憎し」は高まった。

環境車で勝利したトヨタ・ハイブリッド車?
時代は進んだが、カリフォルニア州は依然として排ガス規制を強め、排ガスがゼロの自動車の強制販売法であるZEV規制を実施した。これに見事に応えたのは、今度はホンダに替わってトヨタであった。1997年にハイブリッド車のプリウスを登場させ、やがて2006年前後からカリフォルニア州で爆発的に売れ始めたのだった。しかも、プリウスは排ガスがクリーンなだけではなく、燃費に優れていた。今流に言えばCO2排出量が少なかったのである。
ZEVといえばハイブリッド車、ハイブリッド車といえばプリウスとなり、ホンダのCVCCに続いて、日本車は再び米国ビッグスリーの虎の尾を踏んでしまった。18年から実施される新ZEV規制はハイブリッド車を禁止するのだ。

莫大な日本車の生産台数と売上
さて、上記の設問の答えは、3の2700万台である。しかも国内生産台数は、うち1000万台に過ぎず、残りの1700万台は海外生産だ。そのうえ、国内販売台数は500万台を切っている。国内で生産した自動車の500万台は輸出されている。
つまり、日本の自動車メーカーは、2200万台もの自動車を海外で販売しているのだ。その結果、某氏に聞くところに寄れば、「日本自動車産業は世界の自動車の売上の半分近くを占めている」ということである。
しかも時代は自動車に環境・エネルギー対応を迫っている。その両方を満足させ、しかもエンジン車を中心とした自動車産業の大幅な構造変革も、ガソリンスタンドに代わる新しいエネルギー・インフラの整備も必要ないエコカーは、ハイブリッド車だ。このままでいけば、日本車一極勝利というよりも、トヨタ1社の完全な勝利が見えている。

米国、ヨーロッパそして中国が動いた
ヨーロッパのほとんどのメーカーは、自動車の環境・エネルギー問題の解決をディーゼル車にゆだね、失敗した。トヨタのハイブリッド車に敗北したといってもよい。
米国はまったくと言ってよいほど手段を持っていない。年間の自動車販売台数が2700万台といわれる巨大自動車大国中国は、従来型の自動車の開発もエコカーの開発も思ったように進んでいない。ましてや複雑怪奇なハイブリッド車は作れない。このままではトヨタのハイブリッド車に席巻を許すことになる。
だったらちゃぶ台返し。ゼロから自動車(産業)をやり直そうではないか。そこで、米国がZEV規制でハイブリッド車を禁止したのを見てか、英国、仏国、その他のヨーロッパ各国もハイブリッド車を含むエンジン車の販売を禁止、中国もZEV規制ならぬNEV規制でハイブリッド車を禁止する。
EVならあの憎い日本に、そしてトヨタに負けないぞと、彼らが思わなくて不思議である。

こんな自動車の歴史と政治的な話を含めて、「では私たちはどうする?」という話をしようと思う。
ぜひ「フランクフルト・モーターショー2017緊急報告会」にご参加下さい。お待ちしています。みんなで自動車の行く末と日本の自動車産業の行く末について考えましょう。

開催概要
日時 2017年9月29日(金)12:30~16:30
参加申込締切 9月27日(水)18時 ※延長しました(9/25)
場所 日本科学未来館
(東京都江東区青海2-3-6 Tel:03-3570-9151)
参加費 8,000円(当日お支払いください)※日本EVクラブ会員は7,500円
テキストをご用意する予定です(テキスト代は別途必要です。テキスト代は決まり次第お知らせします)
定員 50名(申し込み先着順、定員になり次第締め切ります)
<プログラム>
【1】 EVをめぐる世界の動き (ヨーロッパ、米国、アジア(中国)の動向)
【2】 フランクフルト・モーターショー2017報告
【3】 対談「EVシフトは本当か?」 
     講師:鳥塚俊洋(JAFメディアワークス)/舘内端
      ー環境・エネルギー問題と新しい自動車市場の喪失
      ー今後の自動車動向と私たちの働き方

【4】 なぜEVか?(EV基礎講座)/質疑応答

※講師:日本EVクラブ代表舘内端、JAFメディアワークス鳥塚俊洋氏(元JAF Mate編集長)
※ イベントの内容、スケジュールは予告なく変更になる場合があります。

■参加方法

お申し込みはこちらのフォームからお願いします。
締切後(9/28)、参加可否についてメールにてお知らせします。

■主催/申込み/問い合わせ先

日本EVクラブ事務局
TEL:03-5376-8446 FAX:03-5376-5310
info@jevc.gr.jp