EVジムニーSJ2001号

ウインチダウン

レポート/鈴木 一史(ZEVEX・京都府)

DATA
ベース車:スズキジムニーSJ30
完成日/製作期間:2000年8月/21年間(継続中)
ナンバー取得日:2000年12月
総費用:1,000万円超

レポート

極限走破の4×4クロカンにEVの核心を見る

昨年「完成目前! 急速充電対応EVジムニー」と題してお届けした現存最古のEVジムニー「SJ2001」号のチャデモ対応カスタム作業ですが、無事完成しました。昨年7月、急速充電器からの充電テストを成功させ、4×4クロスカントリー(以下クロカン)用EVとしては日本初(当会調べでは世界初)の急速充電対応マシンとなりました。

ZEVEXでは活動を開始した1997年当時から言い続けていることですが、極限走破のクロカンの世界は、その生まれ持った素質として、内燃機関車(以下ICE)よりもEVが優位性を持つ世界です。道路の存在を前提にした一般的なクルマ世界のように「ICEが優れているけどEVでも結構行けるぜ!!」ではなくて、クロカンではICEよりもEVが優れている素質を誰でも見ることができます。

クロカン四駆の世界では、ダウンギアを組んで総減速比が100を越えるチューニングが一般的に行われています。ほふく前進よりも遅い速度で障害地形を走り、大きな減速比で太くなったトルクで走破します。しかし、極限まで大きな減速を施した車両でも、エンジンにアイドリングがある以上、ICE(MT)はクラッチを繋いだまま完全停車することはできません。左足はクラッチのお世話に使うので、右足でアクセルとブレーキを操作する必要があります。一方EVはクラッチのお世話は不要ですから、右足アクセル左足ブレーキでの運用が可能です。

2本の足で操作するペダルの数が2つか3つか? この差が決定的に出るのが障害地形内で一旦停止後、再発進する場面です。通常サイドブレーキだけでは止まれないので、エンジンが廻っているなら(かなりの確率でエンストしますが)、左足をクラッチペダルから離せません。致し方なくヒール&トゥでブレーキを踏みながらエンジン回転を上げてクラッチを繋いでいくことになりますが、地形次第ではタイヤが5cmずれると横転滑落に繋がるので、タイヤの空転は御法度です。アンギュレーションの強い路面でタイヤがわずかでも空転すると、落下方向に容易にズレるため、非常に難易度の高いペダル操作が求められます。

ここまで読んで「だったらATならどうなの?」と思われた方がいらっしゃるかと思います。確かにICE(AT)なら障害地形の途中で止まることは簡単です。2ペダル運用である点も同じですが、再発進はMT同様に高難易度の行為になります。トルコンでもCVTでも、極限地形の中でタイヤを空転させることなく”ジワリ”と再発進することは至難の業です。クロカンの舞台となる斜面は40~50度が普通なので、クリープ程度ではまったく動きません。かと言ってアクセルを踏むと、過剰なトルクが立ち上がるためタイヤの空転は免れません。もしくは、そもそも必要なトルクが伝えられなくてタイヤが廻らないかもしれません。ところがEVならば、これを楽々とやってのけます。モータートルクの過渡性能が云々、という無駄に難しい理屈は不要です。実際やればアホでも分かります。

ZEVEXのYouTubeチャンネル「EV-Jimny Channel」には、EVジムニーで岩を登る動画がありますから、それを見るだけでご理解いただけちゃうかもしれません。

もちろんクロカンの世界でも、素質としてEVが苦手な部分はそのまま残ります。代表的なのが走行エネルギー再補給にかかる面倒でしょう。例えばガソリンは1Lで30MJもの熱量を持つエネルギーの塊で、さらに液体なので再補給は容易です。我々オフローダーはジェリ缶から直接給油することも一般的です。一方EVもずいぶん早くなりましたが、特殊な設備がある場所へ行かなければなりませんし、普通充電だと何時間の単位で時間がかかります。

ところが、未開の地を舞台に1万kmスケールで運用するクロカンになると事情が逆転します。当然GSありませんし、ジェリ缶で必要量を積んで行ける距離でもありません。昔ジャングル競技会に出た時に、小型タンクローリー形状のトレーラーを曳いて走っていたチームがありましたが、より長距離になればその手法でも限界がきます。燃料が切れればICEはもはや1ミリも動きません。

そうなった時、「自然から容易に走行エネルギーを得られる」EVの素養が物を言います。ICEでは真似のできないEVの優れた資質です。実際ZEVEXは南極大陸走破を想定したEVジムニーを製作しましたが、PVや風車はもちろん、人力でも充電できるシステムを装備しています。

ことほど左様に、極限走破クロカンはICEにはないEVの長所を肌感覚で知ることができる稀有な世界です。ZEVEXはそんなEVの核心を多くの人に知っていただきたいと思っています。せっかくチャデモが使えるEVジムニーをつくったので、コロナ自粛が明けたらあちこちに出かけて、上記EVの核心を多くの人に体験していただける活動もやっていこうと考えています。その時はぜひご参加下さい。

(動画)

日常の使い方
・使用目的:「道路ありき」ではない、ありのままの地球の表面を前提とする「くるま社会」構築に向けた実証的研究のため。

・使用頻度:月数回。

・充電器と充電方法:CAdeMO・J1772・安定化電源・風車・PVにて充電。
トラブル:30分過ぎてもQCに居座ったままの車両があったので、ウインチで曳いて横に移動させて充電していたら、戻って来た運転者に不服そうな顔をされた。
充電に際しての注意点:EVにコンバートしてからでさえ20年を越える車歴を持つ車両なので、充電中の各部の絶縁は厳重にしている。特に構造的に漏電しやすいブラシモーターなので、充電中はモーターとバッテリーは完全に縁を切っている。

自慢話
前後に装備したウインチを駆使すれば、直角の崖でも登れるし、フルオープンにすれば頭上高80cmの倒木の下も潜って通過できる。

失敗談
JAFのダート競技に参戦して270度横転した。対処法:「凹みも味だ」と気持ちを切り替えて、そのまま乗り続けた。

ナンバー取得について
何とか20世紀中に公道デビューしたかったので、2000年の12月にギリギリで車検を取った。

車両データ(PDF)

CAdeMO・50KW急速充電器で充電中。

Jeep CJ-5のタイヤを登るSJ2001号。2016年「車育湘南」にて。

内燃機関とEVの差が一番如実に出るのが、写真の様なロックセクション中の再発進時。

内燃機関とEVの差が一番如実に出るのが、写真の様なロックセクション中の再発進時。

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