ハノイの大渋滞にはまった電気自動車タクシーの中から考えたこと
薄井 邦保(栃木県)
ベトナム・ハノイの騒がしさの中、大渋滞にはまった電気自動車タクシー「グリーン・スマート・モビリティー/GSM」に揺られながら、ふと考えた。周囲には無数のバイクと車がひしめき合い、クラクションが絶え間なく響く。歩行者よりも遅いスピードで旧市街地を進むタクシーの窓越しに、バイクの群れが川のように流れていくのを眺めながら、この都市のエネルギーを感じる一方で、深刻な大気汚染の現実にも直面する。
東南アジアでは電動モビリティの普及が進んでいる。ラオスのルアンパバーンでは静かに街を走る電動トゥクトゥクが観光客を運び、ベトナムの一部都市でも環境対策として導入が進む。化石燃料の高騰や環境規制の強化によって、この動きは加速している。
そこで、ふと自分が住む栃木県足利市のことを考えた。ハノイの喧騒とは対照的に、足利は急速に人口が減少し、働く場所も減り、急いで移動する必要性も薄れている。移動手段が限られ、利便性の低下が課題となる中で、「ゆっくり移動すること自体を楽しむ街づくり」ができるのではないか。
例えば、15分移動するごとに「憩いの場」を設け、高齢者や移動が不便な人々の生活を豊かにする。神社、スーパー、喫茶店、健康相談所、ジャズ喫茶、筋トレジム、畑、図書館、居酒屋などを点在させ、短い距離を移動しながらリフレッシュできる仕組みがあれば、「移動=負担」ではなく、「移動=楽しみ」になる。それらの間をつなぐのは、時速4キロの電動マイクロモビリティー。近い将来、需要が減った小売店の通路が広がれば、こうしたモビリティを店内に乗り入れる光景も見られるかもしれない。
こうした発想は、イタリア発祥の「チッタスロー(スローシティ)」運動にも通じる。速さを求めず、地域の魅力を生かしたゆったりとした暮らしを大切にする考え方だ。足利のような街こそ、このコンセプトを取り入れ、移動の価値を見直し、新たなコミュニティの形を作ることができるのではないか。あえて「スロー&出逢い」をテーマにした街づくりが主流になるかもしれない。
ハノイの渋滞の中での「速さ」と同じ速度で移動する乗り物と「移動の質」の充実を考えた。目的地に急ぐのではなく、移動そのものを楽しめる街。そんな未来が足利で実現できたら面白い。いや、そもそも街を移動する人の姿すら珍しくなるのかもしれないが――。