基調講演
“今だからこそ知っておきたい!”気候変動の現状

東京大学大気海洋研究所教授 木本 昌秀(きもと まさひで)

1980年京都大学理学部卒。専門は、気象学、気候力学。コンピュータシミュレーションを駆使して異常気象や気候変動のメカニズム解明、予測に挑む。2021年4月より、国立研究開発法人 国立環境研究所 理事長。

頻発する極端気象

木本先生は講演の冒頭で、「コロナも異常事態ですが、環境のほうも重大な局面を迎えております」とおっしゃっています。その例として平成30年7月の豪雨で広島では230名を超える人たちが亡くなった災害を挙げています。
一方、熊谷市は41.1℃という猛暑に見舞われました。気象庁の予報官が記者会見の中で「最大級の暑さなので用事のない人は外出しないでください。命に関わります」というメッセージを発するほどでしたが、いかに暑さがひどかったかと言及しました。厚生労働省は、この年は夏だけで1,400人を超える方が熱中症で亡くなったと発表したとのことです。また、風速50m級の台風で関西国際空港の橋が破損し、8,000人が孤立することになりました。
この年の豪雨、猛暑、台風の3つの災害を合わせて支払われた保険金は1兆5千億円ほどでした。「東日本大震災のときの保険金は1兆2千億円だそうですから、保険金の支払い額による被害の大きさでいうと、平成30年の被害は東日本大震災を超える災害だというわけです」と先生は付け加えました。
また、「翌年には強力な台風が千葉県を襲い、送電線の鉄塔が倒れ、停電が1か月ほど続き、10月に台風19号が来て長野新幹線が水浸しになりました。そして昨年は7月に熊本の球磨川で洪水が起こりました」と述べておられます。

異常気象? 極端気象?

いろいろな人が木本先生に、「この雨は温暖化のせいでしょうか」、あるいは「暑いですけれど温暖化のせいでしょうか」と聞いてくるとのことですが、「大きな災害の原因は、地球温暖化とか気候変動と何か関係があるんですか?」という質問なのでしょう。
そうしたとき、「不本意ながらも、研究者の私どもは異常気象という言葉を使っていましたが、これは別に異常でも何でもないんです。珍しいだけなんです。回数が少ないだけなんです」とのことです。そして「回数が少ないだけで、いつか必ずやってきます」と付け加えました。それは、かつて物理学者の寺田寅彦先生が『災害は忘れた頃にやってくる』とおっしゃっていた通りだということです。
そこで「最近は極端気象と言ったほうが良いのではないかと、そんなキャンペーンを張っております」とのことでした。そして、「気象庁も我々も『30年に1回以下の珍しい気象のことを異常気象』と呼ぶことにします」とのことです。

地球は温暖化している

「昨今、地球がジワジワと温暖化しているという気候変動が起きています。今まででしたら猛暑も冷夏も30年に1回の頻度でしたが、温暖化傾向のせいで猛暑の回数が多くなり、気温もより高くなって冷夏のほうは少し少なくなっている。といった形で気候が変わってきています」というお話に加えて、「世界の平均気温変化のグラフを見ると、19世紀の終わり頃からグラフは右肩上がりで、気温が上昇している傾向がはっきりわかります。だいたい100年に1℃の割合で上がっています。10年だと0.1℃の上昇ですから『自分は大丈夫だ』、とみなさん思われるんですが、これは世界全体の平均、季節も春夏秋冬全部を平均したときの話ですので、どうしても数値は小さくなります」

しかし、「東日本のしかも夏だけに場所と時間を限りますと、気温の変動はすごく大きくなり、ときどき平均から大きく離れ、その影響で気象が変わります。これを我々は異常気象とか、極端気象とか、猛暑とか言っています」ということなのです。

「1,000人以上が亡くなった2018年の夏というのは、今まで経験したことのないような猛暑だった。しかし、気温の変化のグラフでは温暖化はジワジワ進むと思え、気温の数字だけを聞くとそんなに大きな数字ではないように聞こえるかもしれませんが、実際には18年の夏のような災害が起こる」ということです。

さらに「このまま気候変動を黙って見ていますと、21世紀の終わり頃には4℃近く上がるという予想もあります。世界で平均して4℃上がるということは、とんでもなく大変なことだとお分かりいただけたと思います」と。

さらに、「2018年の夏、東日本の平均気温は平年と比べて2℃ちょっとしか高くないんです。それでも大変なことが起きた。ボウッとしていると21世紀の最後には地球全体の気温が春夏秋冬平均して4℃上がるかもしれない。場所や季節を限れば10℃以上も平均値より離れる、そんな現象が起きても全然おかしくないのが地球温暖化なのです」ということです。

では、地球温暖化の原因は何でしょうか。

「大気中の二酸化炭素(CO2)の『濃度』は右肩上がりに増えています。一方、人間活動によって出た二酸化炭素『排出量』の推定値、これも右肩上がりで増えています。2つとも右肩上がりだから『二酸化炭素の排出量と濃度の増大が地球温暖化の原因だ』と言ってはいけないんですが、何かしら関係があるだろうなという感じがあります」

「人間活動によって、化石燃料たとえばガソリンを燃やしますと二酸化炭素が出ます。二酸化炭素には温室効果があり、地球を暖める方向に働く。だから地球は温暖化していると思うわけですね」

さらに「人間活動は他のこともやっています。排気ガスも出していますね。目に見えない二酸化炭素と、細かい粒で目に見える塵ですね。塵はいろいろな種類があり、総じて地球を冷やす方向に働きます。みなさんご存じのように塵は大気汚染を引き起こしています。最近東京は空気がきれいになりましたけど、隣の国では茶色い空に覆われている街もあります。塵の中でも代表的な硫黄酸化物も、やはり右肩上がりになっています。日本では対策が進んでいるため少し頭打ちになりかけていますが、やはり人間活動は余計なものをたくさん出しているということに変わりはありません」

平均気温の上昇と降水量

「世界の平均気温は100年に1℃程度上がっています。ところが降水量には増加のはっきりした傾向が見られない。海の上の雨量は計りにくいので地面の上の雨量しか書いてありませんが、降水量の地理的、時間的な分布は局地的です。たとえば、ここお台場の気温は22℃で、横浜の気温は35℃、そんなことはあり得ないですね。ところが降水量については、お台場では降っていても横浜では降っていない、そうしたことはしょっちゅうあります。降水量は局地性が強いので検出が難しいわけです」とのことで、降水量の検出は難しいということでした。

IPCCによる地球温暖化に対する見解

「二酸化炭素が地球温暖化の原因になっていることは科学的な見解としてIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によっても認められています。

「IPCCの報告書は、世界の政府が地球温暖化はどうなっているんだと世界の科学者に言って、彼らが研究をまとめて書いたものです。その報告書では地球の気温が右肩上がりになっていることが示されています。また、大気の状態などすべてをコンピューターでシミュレーションして、人間活動の結果、気温等がどうなるかを予測しています。人間が活動を何もしていなかったら温度は上がらないという計算結果が示されました」

その結果、「コンピューターのシミュレーションを信じる限りは、地球温暖化が起きているのは人間活動のせいだということになります。このほかにもいろいろな証拠を照らし合わせ、このIPCCの報告書には強い言葉で『気候システムに対する人間の影響は明白である』と書かれています」ということです。

将来予測 気温と海面上昇

気温はどうなるかというと、「世界平均地上気温の過去100年間ぐらいの推移と、その先21世紀終わりまでの平均気温が予測されています。何の対策もせずに今の勢いで石炭や石油、天然ガスといった化石燃料をドンドン燃やしてしまうと、21世紀の終わりには産業革命の頃に比べて気温が4℃以上上がるという予測されています。一方、一生懸命に対策をしたらどうなるのか。対策をすれば平均気温の上昇は2℃以内に収めることが不可能ではないと予測されています」ということです。

海面の上昇は、「水位、海面の高さが上がると東京でも困ったことになることが予測されます。水位というのは海の水が膨張したり、陸上の氷が溶けて海の水が増えたりすることによって起こりますので、気温の上昇時より数十年以上あとに起こります。ですから気温を止めたとしても、しばらくは水位の上昇は続きます。今、自分の家は水浸しにならないだろうから大丈夫だと思っても将来はそういうわけにはいきません」。

温暖化の「緩和」

「温暖化を止めたい、その対策のことを緩和策と言います。トランプさんのアメリカ以外の国は、数年前にパリ協定に合意して頑張っている最中です。この国際条約は、なるべく早く人間活動による温室効果ガスの排出を止め、ゼロエミッションにして温度の上昇を止めることを目標にしています」ということですが、「覚えて帰ってほしいことがある」と木本先生が言っています。

それは、「これまでの人間活動で出した二酸化炭素の量をすべて足した累積排出量で地球の気温が上昇しています。気温上昇量は右肩上がりの真っ最中です。気温上昇を防ぐべくいろいろな対策をしていますが、残念なことにCO2排出量も右肩上がりの真っ最中です。CO2の累積排出量のピークと、温度上昇のいちばん高いところが比例しています。この比例の法則を使うと、今後我々がどうしたらいいかが簡単にわかります」

温暖化を緩和するには……。

「今、地球の温度は産業革命前より約1℃増加しています。上昇を2℃に止めるにはあと1℃しかない。これから先、今の調子でCO2を排出し続けると、CO2排出量の累積排出量はどんどん増えていきますね。従って温度もどんどん上がっていく。2℃目標どころではなく、4℃目標も簡単に超えていってしまうかもしれません」ということなので、かなり深刻です。

「それはまずいので、できれば今すぐにでも排出を削減に向かわせていくべくゼロエミッションとかカーボンニュートラルとか、そうしたほうがいいとかではなく、そうしないと温度上昇は止まりません」。CO2ゼロは「MUST」なのです。

さらに、「温度上昇を止めないと、氷がどんどん溶けて東京は水浸し、横浜も水浸しになってしまいます。今の温度上昇を止めるためにはゼロエミッションは必須条件です」ということで、できるだけ早い時期にCO2排出をゼロにしなければなりません。

さらに、「もうひとつ、ついこの間、総理大臣が2050年にカーボンニュートラルを実現するんだということを宣言されました。どうやってやるのかという話はあるけれど、はっきり目標を明示することは悪いことではないと思います。それに向かって国民が力を合わせて進む」ことが大事だということです。

2018年度電源別発受電量内訳

ではどうやったらゼロエミッションにできるのでしょうか。

「いちばん簡単なのは化石燃料を燃やさなければいい。化石燃料を燃やす活動の中で、もちろん自動車も(石油を燃やす)のでなんとかしないといけませんが、やはり電気を作るのに石油や石炭を燃やすことが(日本のCO2排出量が多い)いちばん大きい原因だと私には思われます」

「日本における再生可能エネルギーの割合は18%です (※2020年は約20%。文責者注) 。ちょっと前に比べると増えていますがそれほどでもない。太陽光発電も伸び率はすごいですが、全体の6%でまだまだです。再生可能エネルギーのうち半分くらいは水力発電です。新しい技術ではありません。新しい技術は伸び率はすごいんだけれどなかなか目標には達せない。さらに残りの82%も再生可能エネルギーにしないとゼロエミッションを達成できない」ということです。

ちなみにデンマークの66%、ドイツの40%に比べると日本の再生可能エネルギーによる発電量は見劣りする。木本先生のおっしゃるように日本はそうとう頑張らないとCO2排出量をゼロにはできそうにありません。

「ゼロエミッションはCO2を一切出さないということですから、首相がおっしゃったカーボンニュートラルとは、厳密に言うと違いますね。電気がいるから石炭を燃やしたけれど、(発電で出たCO2は)昨今の技術では大気に放出しなかったことにする。海の底に埋めて出てこないようにする。つまりカーボンキャプチャ&ストレージ(Carbon capture and storage(CCS))ですね。そうしたいろいろな技術が出てきています。ですから、(カーボンニュートラルというのは)ひとかけらたりほども石炭を燃やさないというわけではないんです。ただ、それには莫大なお金がかかるので、それに頼りきりにはできません」
どうやら実際は、新技術を開発して化石燃料の燃焼で排出されたCO2を地中や海底に埋めたりしてCO2排出量は実質ゼロと考え、(石炭)火力発電所のような設備は残るようです。その他、これまでのいろいろな化石燃料設備も残るようです。

地中や海底に埋設したCO2は、果たしてもう空気中に放出されることはないのでしょうか。

コロナ禍と気候変動

「新型コロナウィルスで経済活動が低調になっているので、CO2排出量が減って大気汚染も改善するからいいんじゃないかと思われるかもしれませんが、残念ながら両方ともあまり当たっていないことをこれからご説明したいと思います」。先生のあっと驚く話が始まります。

「経済活動の停滞によって減ったCO2の量は数パーセントぐらいですね。CO2はガスだと先ほど言いましたが、一度出るとなかなか減らずに、ずっと大気中に滞留し続けます。もちろん光合成で植物は吸いますよ。海も吸いますけど、地球の大きさに限界があり全部は吸いきれないのでたくさん大気中に残ってしまう。ということでCO2は大気中に増えてしまうわけです」

「今のCO2の濃度というのは、過去何十年かにどれだけ出したかによるわけです。1、2年減ったからといってあまり差が出てこない」

「一方、大気汚染はどうか。大気汚染物質は粒ですから、雨が降ると流されるので寿命が短い。大気汚染物質を出している工場のそばの空気は汚いけれど、遠く離れるとわりときれい、そういう性質があります。大気汚染がちょっと減るとその近所は減るんですよ。でも大気汚染物質が増えるとまた空気は汚くなってしまう。減るのがちょっとの期間で、また大気汚染物質が増えると大気中濃度も増えてしまう。結局同じことの繰り返しです。ですから根本的な対策が必要で、ウィルス対策のついでに気候変動も対策しましょうという都合のいいことは考えにくいのです」ということでした。

2050年カーボンニュートラルに向けた成長戦略への提案

「政府もカーボンニュートラルをやりながら同時に経済成長もやろうと一生懸命検討しているようです。今日、電気自動車のイベントということでこうした資料を見ていましたら、ちゃんと表に書いてあるじゃないですか。カーボンニュートラルの実現に向けた政策の大事なひとつとして電気自動車を大いに奨励しましょうと。今日はたまたま電気自動車のイベントに来ましたが、こうしたイベントは大事な事業だということです。来週、建築会社に呼ばれて、私はまたこういうところでお話をすることになっていますが、住宅の脱炭素化も大事なことなのです」

生活していくには自動車も家も必要です。だからといって、もうCO2は出せませんから、自動車も家もCO2ゼロにしていかなければ人類は生き残れないということです。

温暖化に伴い極端気象の増加が予測される

「さて、日本の気温は上昇傾向にあるけれど、降水量がさほど増えていないように見えるのは、年平均の降水量で考えているからで、日降水量の変化は大きくなっています」

「極端気象の統計を見ますと猛暑日は増えています。日降水量(1日の降水量)が200mm以上の日数、大雨の日数は上昇傾向にある。これは、『最近、雨が多く、降り方が違ってきた、一体どうなっているのか』、といったみなさんのご経験と一致するところです」

「過去の事象がすべて温暖化のせいではありません。このような傾向は、温暖化が起こったら気温が上がり、理科の本に書いてあるクラウジウス・クラペイロンの法則にしたがって水蒸気が増え、空から落ちてくる雨の量も増える」

「雨はゼロのところが多く、プラスの地域もある。平均がちょっと増えるためには降る季節、降る場所にもっと降らないと辻褄が合わない。したがって、雨のほうは極端化が激しくなるという考えと一致しています」

なるほど平均雨量が少し増えるとは集中豪雨が極端に増えないとつじつまが合わないということなのですね。

「温暖化により極端降水が増えたら、そのぶん対策も考慮に入れて進めてくださいと十数年前から言い続けていました。国土交通省がついに2019年10月18日にこれからは堤防の高さを決めるのに、温暖化で雨が増えるぶんを考慮に入れて決めることにさせてください、みなさんの血税を使う事業ですからみなさんのご了解をお願いしますという提言をしました。他の省庁でも、温暖化を考慮に入れて政策を考えさせてください、みなさんも会社や自治体でそういったことを考えてくださいということを日本政府は法律を作って温暖化に対して適応していくことになった」

地球の平均気温のわずかな上昇で集中豪雨が増える。これが地球温暖化の本質的で重要なところなのですね。

「先ほど温暖化を止めると言いましたが、産業革命前よりある程度気温が上がったところまでで温暖化を止める必要がある。まだある程度まで行っていませんが、この百数十年は少し上がっている。今より少し上がった状態で止めないと…。

江戸時代が良かったから戻してくれと言っても、CO2の累積排出量が増えてしまった。もう排出してしまったので完全には元に戻りません。5千年くらいったらひょっとしてもとの濃度に戻るかもしれませんが、我々が生きている間には難しいです」

元の地球の気温には、もう戻れない。実は大変なことが地球環境に起きているのです。

降水頻度の変化

「温暖化に伴って極端気象が増える。降水が変化するんですが、雨は局地性が強いですね。平均が少し増えますが、実際は降ってる場所、降る季節、たとえば日本の台風の多い夏とか秋とかに、より多くの雨が降る。雨が降っている場所には上昇気流があり、それが下がると雨が降りにくくなる」

「どこが降りにくくなるかというと、たとえばインドはモンスーンでたくさんの雨が降ります。中東のサウジアラビア、イラン、イラクのあたりは砂漠が多い。インドでたくさん雨が降るから、サウジやその周辺の降水が抑えられてあのへんは砂漠になる。これは典型的な例です。とにかく雨がたくさん降る場所もあれば、降りにくくなる場所もある。温暖化に伴う雨の変化は、降るときはたくさん降って、降らなくなると干ばつになるという極端さがいっそう進むことが予想されます」

雨は降れば豪雨で洪水となり、降らなければまったく降らず干ばつになるというわけですが、まさしく気象の極端化ということでしょう。

地球温暖化と台風

「日本の場合、台風が大変です。台風は大きいと思われるでしょうが、地球規模で見ると小さい。台風の目は10㎞ほどしかありませんので、非常にシミュレーションが難しいのです。

それでも台風が来るから会社をお休みにしてください、電車を止めてくださいとだいぶ前から言うようになりました。気候変動で気温が上がるだけではなく、極端気象が増え、災害も増えて地球の気象は大変なことになってきましたが、そのぶん逃げるための情報発信も少しは良くなってきているので自分なりに利用して逃げてください。最終的に逃げていただかないと命は救えません」

やはり地球の気象は大変なことになっているのです。極端気象で日本の場合は台風が強力になって、豪雨、洪水が起きやすく、しかもその強さ、規模が大きくなっていますから、一般の人たちは、そうなったらとにかく逃げることが第一です。

極端気象イベントに対する温暖化寄与の評価

「極端気象イベントから話を始めました。では温暖化はこれに対して何をしているのか。もし温暖化がなかったら、2018年の猛暑はどのくらいの割合で起こるか。2018年の猛暑は温暖化がなかったら起こらなかったと、シミュレーションの範囲では考えられます。雨や洪水や猛暑、これらはすべて温暖化だけのせいで起こっているわけではありませんが、温暖化はその起こり方にかなりの影響を与えています」

「雨についていうと、前は200年に1回だった豪雨や洪水が、温暖化すると50年に1回になる。もうひとつの見方として、同じ100年に1回の大雨の雨量が温暖化すると何割増しかになります。平成30年7月の西日本豪雨ですが、温暖化の要素を除いて計算したところ、6~7%降雨量が少なくなっている。つまり、温暖化があるがゆえに同じ気圧配置で同じ天気になったとしても雨量は6~7%増える。この6~7%がなかったら河川の洪水もなく、亡くなられた方もいらっしゃらなかったかもしれません」

たった6~7%降雨量の大小で洪水の被害は大きく変わってくるということなのです。雨量のわずかな変化にも敏感にならないといけないわけです。

様々な分野における将来予測される影響

「気象以外にも、温暖化すると具合の悪いことのほうが多いということが環境省や経産省のホームページに書いてあります。逆にこれをビジネスチャンスと捉え、よその会社より先に良い電気自動車を出したら全世界を席巻できるかもしれないとか、ポジティブに捉えてやっていただけませんかというようなことがたくさん書いてあります」

直近予測~リードタイムの確保

「地球温暖化で極端気象が増えると災害が起こります。地球全体の幸福も大事ですが、まず自分の命を守ってください。できるだけ早く逃げてください。我々はみなさんに少しでもよい情報をお届けできるように頑張りたいと思っています」

まずは自分の命を守りましょう。その上で、子供たちのこと、日本のこと、世界のことを考えましょうということですが、「まずは逃げる」という言葉から、気候変動、極端気象がのっぴきならないところに来ているということが理解できます。

気象情報のよりよい利用に向けて

「ビジネスも気象情報を少し上手に利用して行うと、たとえば缶コーヒーのホットとコールドの切り替えなどを1週間早めただけでも儲かりますよと、そういった話がたくさんあります。WXBCというキーワードをグーグル検索していただくと、見つかるような仕掛けになっています。ここでは800社以上の企業の方が集まり、ああだこうだと話し合う場所もあります」

最後に

「温暖化に伴い極端気象が増加しています。日本政府も本腰を入れていますし、もちろん電気自動車の普及などもこれに貢献すると思いますので、みなさんにもぜひご協力いただきたいと思います。本日はご静聴ありがとうございました」

木本先生。ありがとうございました。

※ 東京国際交流館で開催した「日本EVフェスティバル(2020年12月5日)」における木本昌秀東大教授の講演を取材し、まとめました。(取材・文責 舘内端)

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