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Japan EV Festival 1999

オールアウト

 「隗より始よ」こそが日本EVクラブの世界に誇るべき理念ですが、その実践の場のひとつで、しかも最も大きなイベントが、日本EVフェスティバルです。

 それで、参加者の中には戸惑う人も例年います。参加費を払ったんだから主催者がなんでもやってくれよ・・・と。

 ところが、主催者は参加者で、参加者は主催者なので、自分が動かないことには、何も始まらないし、競技にも出られません。たとえば、自分の使うテントは自分で張るのが原則なのです。近くで黙々とテントを張り、パイロンを並べ、ゴミを拾う先輩参加者の姿を見ると、初心者の方も、「主催者がやってくれよとは、自分がやれということか」と、納得するというわけです。

 しかし、それでもフェスティバルを運営するには中心になるスタッフが必要です。
でもボランティアなのです。仕事を終えてから重い足取りで何度も開かれる準備委員会に出席し、必要書類を印刷し、封筒に宛て名を張って、郵便局に運び、返事を開封し、再び必要書類を郵送し、電話での問い合わせに答え、オフィッシャルのTシャツを作り・・・。あげくの果てに、当日は朝4時30分に会場に集合して、真っ暗な中で会場設営を始めるというわけです。

 私が思うに、このフェスティバルの競技に出場したいと最も強く思っているのは、スタッフなのです。かくゆう私がそうです。私の場合は、忙しすぎるのと、競技に出場すると疲れて使い物にならなくなってしまうので遠慮していますが、本当は出たいのです。若くて、体力があるスタッフは、忙しいにもかかわらずそれでもEVを作り出場しています。立派というか、うらやましい限りです。

 いや、そんなスタッフこそ、本来の参加者の姿なのだと思いますし、そうした人たちが出場できるのが本来の日本EVフェスティバルの姿だと思います。

 立派といえば、ご協賛各社の人たちも設営に協力し、計時をこなし、交通整理をし、後片付けをします。そんな姿を見ると頭の下がる思いです。

 そんなスタッフやご協力者のみなさんが、最高にうれしい瞬間は、競技参加者の全開走行です。真剣に、わき目も振らず、1年間の成果を余すところなくすべて出し切る姿は感動的です。

 早稲田大学ラグビー部の本を出した私のスキーの友人がいます。その本の題名は「オールアウト」というものです。その意味をたずねましたら、「(その瞬間に)すべて出し切るということです」とのことでした。私も高校時代はラグビーの選手でしたので、よくその意味が分かりました。オールアウトこそ、人生でもっとも大事なことではないでしょうか。

 今大会では、京都と大阪から3人の会員が自作のEVで会場まで自走しました。自走賞を差し上げると、3人とも口をそろえたかのように、「こんな(苦しい)ことは、もう2度とやりません」との挨拶でした。これは、オールアウトの後にして初めて言える言葉なのです。その一人から、「いや、また走りたくなって、今度は京都から名古屋まで走ります」とのメールが届いています。アホーですね。まったく。 

 小学校は中学進学のために、中学校は高校進学のために、高校は大学進学のために、大学は一流企業就職のために、一流企業はゆとりある老後のために、老後は安心して死ねるために、死ぬのは・・・、果たして何のためでしょうか。私の周囲にも何のために大学に進学したのか、何のために毎日大学に通っているのか分からなくなって、ひどく悩んでいる学生と、何のために就職したのか、なぜ会社に通っているのか分からなくなって、会社を辞めた若者がたくさんいます。

 私は、彼らはオールアウトした経験をもっていないのではないかと危惧しています。つまり、小学校であれば小学校でなければ出来ないこと、感じられないことに全開でぶつかり、「こんなことは2度とやらない」と思ったことがないのではないだろうかという心配です。高校時代も同様で、進学のことなどすべて忘れて、その一瞬に人生のすべてを賭けたことがなかったのではないでしょうか。とくに男の子は、思春期である高校時代にこうした経験をすることがとても大事です。

 しかし、オールアウトするには、「こんなことして、大丈夫だろうか。ママに叱られないだろうか。先生はなんていうだろうか。勉強ができなくなるんじゃないだろうか。あのブランドの大学に受からなかったら、ボクの人生はもうない!」といったさまざまな不安に立ち向かう勇気が求められます。

 オールアウトする勇気は、自立することから生まれます。つまり自分のことは自分で決めて、自分でやる。そしてその自分の責任を取るということです。人に頼らず、率先して行うことです。つまり、隗より始よなのです。 本大会でも、たくさんの隗より始めた人たちが輝いていました。それは、人に勇気を与えることでもあるのです。スタッフとご協力者は、そうしたたくさんの隗より始よ人間たちがオールアウトする姿から、たくさんの勇気をいただきました。

 隗より始めて、来年もオールアウトしましょう。


日本EVクラブ代表
舘内端
日本EVクラブ代表 舘内端