舘内端の「自動車の力」:第18回「フォルクスワーゲンの決意 その2」 ――私たちはEVを普及させる――

前回に述べたようにVWは自動車の電動化を本気でやる。そこで、次はVWの具体的なEV導入戦略について述べよう。

プレゼンテーションの7枚めはVWのEVとハイブリッド車の開発の歴史、8枚めは「VW(グループ)はすべてのクラスで電動化を図る」という決意表明である。

そのロードマップでは、2011年までにTouareg、Audi Q5、Porsche  CayenneS、PanameraSを、12年にJetta、Audi A6、A8、限定生産のXL1、918Spyderを、14年以降Passat、A4、Q7をそれぞれハイブリッド車あるいはPHVにする。さらに12年に限定生産のAudi R8 e-tronを、13年にはe-up、e-Golf、限定生産のe-Caddy(商用車)のEVを販売する。そして、2013年をVWのEV元年としている。

これほどにはっきりと自社の電動化の行程表を明らかにしたメーカーも少ない。はっきりしない国産メーカーに比べると雲泥の差である。

電動化では、これまでのようなエンジンの開発、性能向上とは違う道をエンジン開発陣はたどらなければならない。ハイブリッド車に要求されるエンジンの特性は、エンジン単独の場合と大きく異なり、さらにEVではエンジンは不要だからである。

ということは、フル電動化という路線の発表は、社内のエンジン派と合意を取り付けられたということであり、これは国内のメーカーでは至難の業である困難な決定なのである。

それを知っている国内メーカーの首脳は、もし彼らが明晰な頭脳を持っているのであれば、「VW、フル電動化」のヘッドラインだけで震え上がるはずである。

えっ、うちの社長はへらへら笑っているだけだってか? ウーン。そろそろ転職を考えた方がよいだろう。

VWはグローバル企業である。ということで、上記の次世代車は各国で実証試験が行われている。米国ではe-Golfが20台、R8e-tronが1台、フランスではe-Golfが15台、ベルギーではe-Golfが10台、スペインではAltea Electric Leon twinDRIVE1台、チェコではOctavia Green E lineが1台、オーストリアではe-Golfが15台、中国ではe-Golf、R8e-tron、E-Lavida、E-Boraを、本拠地ドイツではe-Golf80台、Gole twinDRIVE20台、A1e-tron20台、BoxsterE(Porsche)3台を実証試験する。

いつも感じることだが、ヨーロッパの自動車メーカー、とくにドイツのメーカーはやるといったら必ずやる。しかも、しっかりやる。ただし、進行速度はあまり速くない。その代わり、確実に一歩一歩やる。一方、日本のメーカーはあまり「やるぞ」と宣言しない。いつの間にかやめていたりする。米国のメーカーは、やるもやらないもない。何にもやらない。そんな違いがある。

VWの実証試験の計画を見ていると、やるといったらやるのだなと思う。きっとVWは計画をやり遂げて、電気自動車を普及させてしまうだろう。

この強固な意志はいったいどこからやってくるのだろうか。情緒の国日本と、理性の国ドイツの違いだろうか。

次はe-Golfのフリートテストの結果である。ほとんどのテスターが満足している項目は、上位から「加速性能」、「暖房」、「室内騒音」、「ハンドリング」、「充電の安全性」、「運転の楽しさ」、「快適性」であった。

一方、やや不満、どちらかというと不満を示した項目は、上位から「公共充電施設の未整備」、「航続距離」、「航続可能距離の表示の確度」、「充電時間」といったものであった。

ここに「価格」を含めると、よくいわれる電気自動車の普及を阻害する3大項目である「価格の高さ」、「航続距離の短さ」、「充電インフラの未整備」となる。日本も自動車大国ヨーロッパも、同じ傾向といえる。

ただし、この3項目はいずれかなり是正されることも確かである。航続距離にしろ、充電インフラにしろ、どの程度のところで折り合いをつけるか。そのカギを握るのは、私たちが電気自動車に慣れることだろう。というのは、慣れてしまうといずれの“弱点”も付き合い可能なものになるからだ。

VWはプラグインハイブリッド車=PHVの試験車の用意もある。ツインドライブと呼ばれるGolf Variantの詳しい構造は不明だが、スペックと性能は以下である。

エンジンは1.4リッターのTSI、発電機は30Kw、モーターは85kW、バッテリーの電力量は12kWh、加速性能はゼロ100kmが11秒、EVのみの走行距離は57km、最高速度はEVモードが120km/h、ハイブリッドモードでは170km/hである。航続距離は合わせて850kmだ。

プリウス・PHVに比べるとEVモードの走行距離が2倍ほど長い。

PHVにはさまざまな意見がある。しかし、自動車メーカーは、VWに見られるように純電気自動車が普及する前にPHVが普及するというか、そうしたいと考えている。

VWの次世代車開発・普及ロードマップでは、エンジンの改良によるCO2排出量削減→ハイブリッド車→PHV→EVとなっている。そうしたロードマップを描く自動車メーカーは多い。ただし、これらは明確に時期が区別されるわけではなく、互いにオーバーラップして市場に投入される。

純EVの普及には時間がかかるので、それまでの間は上記のような疑似EVが必要だと自動車メーカーは考えている。というのも、EVには「価格」、「航続距離」、「充電インフラ」という三大障壁あって、なかなか普及しないといわれているからだ。だからといって、このままでは地球温暖化も抑制できず、石油需給の逼迫にも対処できない。ということで、EVに代わってPHVを普及させなければならないというわけだ。

しかし、最近の動向を見ていると、3大障壁はかなり近い将来に解決する可能性が濃厚であることが見て取れる。

たとえばEVの価格の高さの原因であるリチウムイオン電池価格は、2年前の1kWh当たり10万円から現在では5万円にと一気に半額に低下している。業界関係者のほとんどは2015年には2.5万円から3万円になると見ている。

また、米国エネルギー省のPatric B.Davis,Program Managerは2007年に1kWh当たり1300ドルだった価格は2012年に500ドルへと2.6分の1に低下しているという。氏は2015年に300ドル、さらに2020年には125ドルに下がるという。1ドル80円で換算すると125ドルはたった1万円である。

こうなると2009年の発売当初に200万円近くしたといわれるi-MiEVの電池価格は、2020年には16万円になってしまう。リーフでも24万円である。電気自動車の価格はエンジン車と遜色のないものになるだろう。

充電インフラは、国の予測を5年前倒しで整備される。国は2020年に5000基の急速充電器があれば十分だというが、日産は2015年に早くも5000基を用意するというのだ。それ以外、スーパー、GSなどの企業、公共施設の急速充電器を合わせると6000基もの施設が設置されるかもしれない。日本は2015年で世界一の充電インフラ先進国に躍り出るのだ。

日本EVクラブ会員で埼玉にお住いの女性は、愛車のリーフで仙台まで370kmを往復した。彼女の友人の女性は同じくリーフで東京~広島往復に成功している。6月4日現在の急速充電器の数は1494基である。この程度のインフラで全国とはいわないが、かなり自由に移動できるようになったわけだ。

2020年に6000基の急速充電器と200万基の普通充電コンセント(200ボルト)が普及するとなれば、充電インフラの整備は終わるといってよいだろう。

ちなみに日本EVクラブでは充電インフラ、とくに急速充電施設の普及を促進するために、13年に電気スーパーセブンで急速充電しながら日本を1周し、14年には白馬EVラリー・イン・ジャパンを行う計画である。EVが走れば、走っただけの充電街道=ルートEVが生まれるではないか!

航続距離は、電池のエネルギー密度と搭載量、そして車両のエネルギー効率によって決まる。業界の予測は2015年から2020年にかけて航続距離は300km程度になるというものだ。

長くてもあと8年。2020年にはEVの3大障壁は解消される可能性が高い。

では、PHVはどうだろうか。本格的な登場は2015年以降だろう。するとわずか5年後にはPHVのEVに対する優位性が失われる可能性が高い。私はPHVの商品としての寿命は意外に短いような気がしている。

2020年から25年では、圧倒的多数のエンジン車と少しばかりのハイブリッド車とEVが存在するようになり、わずかな隙間にPHVが存在するのではないだろうか。

ただし、新車の販売ということになると、エンジン車は半分以下で、半分の半分をハイブリッド車が、残りをEVが占めていると思う。ハイブリッド車はまだしもPHVはあまりにも中途半端な自動車である。

その他、VWのプレゼンテーションで目立った項目は3つである。

ひとつは、ハイブリッド車、PHV、EVの電気動力車は社会のエネルギーシステムに組み込まれることで、エネルギー事情を好転させるということ。

2つめは、リチウムイオン電池のエネルギー密度動向。

3つめは、電動駆動システムの将来予測である。

エネルギー密度が高ければリチウムイオン電池は軽くてコンパクトになり、航続距離が伸びる。

現在のEV用リチウムイオン電池のエネルギー密度は、量産レベルで120Wh/kgである。つまり1kgのリチウムイオン電池でおよそ1km走れる性能だ。研究室レベルでは240Wh/kgとなる。航続距離は2倍だ。

VWは2020年では量産型で200Wh/kg、研究室レベルで280Wh/kgになると予測している。たとえば280Wh/kgの電池を、現在リーフに搭載されているのと同じ重さだけ搭載すると、航続距離は200kmの2.3倍の460kmとなる。

つまり、2020年近傍ではEV普及の三大障壁は解消されている可能性が高いということである。

最後は電動駆動システムの改革である。現在は、モーター、インバーター、減速機・差動装置が別になっている。次の段階では、これらの部品が一体になり、第三段階ではモーターの中に減速機と差動装置が組み込まれるようになって、軽量・コンパクトになると予想している。

VWのレポートの最後は、将来のエネルギーで締めくくられている。ヨーロッパかつドイツの自動車メーカーらしく、脱原発・グリーン電力によるエネルギーが将来の姿だという。

エネルギーの将来まできちんと見通した自動車の将来予測と自社の次世代車戦略について、とくに国内の下位メーカーはここらで発表しないと世界に恥ずかしいと思うのだが、どうだろう。

文:舘内端

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