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福島の原子力発電所のトラブルを受け、私のメールマガジン読者の方からも「電気自動車の未来に対する懸念」についてご意見をいただきました。この機会に、日本の電力問題と電気自動車について、私の見解を述べておきたいと思います。

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地震発生から2日後の日曜日、私は長野県の原村で開催されたEV講演会に出かけました。交通手段は自動車です。東京に戻って給油しようとしたのですが、近隣のガソリンスタンドは軒並み品切れ状態。まだ給油できるスタンドには、長蛇の列ができていました。

その光景を見ながら、私は直感的に「これが20年後の街の情景なのかも知れない」と感じました。この先、化石燃料は間違いなく枯渇していきます。品切れのスタンドや給油する車の長蛇の列は、今回の大震災によって近未来を先取りしてしまったといえるのです。

現在の状況は、しばらくするといったんは改善されることでしょう。でも、化石燃料の枯渇という根本的な問題が解決されるわけではありません。私たち人類は、気ままに給油できない日常という現実に向かっていることを、再認識しなければいけません。私たちは自動車の脱石油化を進めなければ、今後も自動車を使うことはできません。

◆◇◆ 原発事故で考えるべきこと

福島の原発事故は心配です。今日(3月14日)の時点で、福島第一原子力発電所の一号機、三号機の建屋爆発に続き、二号機も原子炉の冷却機能が停止したと伝えられています。致命的な事故に結びつかないことを願い、信じてはいますが、予断を許さない状況であることは間違いないでしょう。関係機関のみなさまの奮闘を期待するしかありません。

原子炉建屋が水素爆発を起こした衝撃的な事態には、国際原子力機関(IAEA)も注視しています。エネルギーの脱石油化はすでに世界の大きな流れとなっていて、原子力発電を見直す機運が高まっていたところだったからです。今回の福島の事故を日本がうまく切り抜けられるかどうかは、今後の世界のエネルギー事情にも大きな影響を与えると考えていいでしょう。

今回の事故を受け、日本では原子力発電そのものへの疑念の声が高まっているようです。でも、感情的に「原発反対」ばかりを唱えるのは、あまり得策とは思えません。

ご存じのように、日本のエネルギーは石油に大きく依存しています。その石油の調達先として、中東への依存度が高いことが問題視されています。中東で相次ぐ革命で、ガソリン価格などが急騰しているのもご存じの通りです。つまり、どんなエネルギーから電気を得るかということは、たんなる電力の問題ではなく、エネルギー安全保障の問題に直結しているのです。

現在のところ、発電などのエネルギー源を脱石油化するために、最も頼りにされているのが原子力です。原子力は怖いからダメだ、火力発電に戻せというのなら、石油に比べて資源埋蔵量が多いとされる石炭火力発電の比率を高めることになるでしょう。しかし、石炭火力発電は、石油より多くのCO2を排出してしまいます。

それでは、EVは原子力発電がなければ充電もままならないのかと言われれば、心苦しいところではありますが、現状では「その通りです」と答えるしかありません。

原子力発電は、私たちが莫大なエネルギーを必要とする今の生活を続けていこうとする限り受容するしかありません。日本の場合は、電気自動車の充電も原発に依存せざるを得ないのです。

◆◇◆ さらに進化した「文化」を作り上げるために

原子力発電にはいくつかの大きな問題点があります。まずは、今回の事故で突きつけられた安全性の問題です。地震国の日本では切実な問題といえるでしょう。また、原発で生じる「ゴミ」の問題も深刻です。高レベル放射性廃棄物は地層処分される方向で検討されていますが、肝心の処分場建設地などについてはまだまったく白紙のままの状態が続いています。

さらに、原発の燃料であるウランの資源量にも限度があります。今のままではおよそ80年ほどで世界のウランは掘り尽くされるといわれています。日本をはじめ、いくつかの国で使用済みウラン燃料の再処理が進められようとしていますが、再処理の工程や、再処理で生産されたプルトニウムを使った発電には、現状の原子力発電以上のリスクが生じるともいわれています。

いずれにしても、原子力発電の燃料である核物質は、石油などの化石燃料と同様に限りある資源であり、人類はおそらく今世紀中に「脱原発」の道を見つけなければなりません。

「脱石油=原発」という認識は正しくありません。私たち人類は、莫大なエネルギーを消費してしまう生活様式を見直し、再生可能エネルギーなどへの「大転換」を模索していくしかないのです。

「大転換」が必要なのは、自動車が置かれた状況も似ています。ガソリンなどの化石燃料を使用するエンジン自動車が、今のように使えなくなる時代はすぐ目前に迫っています。自然エネルギーのひとつとしてバイオ燃料がありますが、バイオ燃料をそのまま燃やす内燃機関とバイオ燃料で発電した電気で走るEVを比較すると、EVのほうが格段に高効率です。燃料電池にも多くの問題があって実用化は難しい状況です。自動車に代わる次世代の移動手段として、EVが最も有力であることは、すでに世界中で認識され始めています。

つまり、エンジン自動車は石油枯渇という大問題にぶつかり、電気自動車は原発問題を直視しなければならないということです。

また、脱石油=原発が正しくないのと同様に、自動車の代替がEVであると考えるのは短絡的に過ぎます。日本EVクラブの活動のなかでも提言し続けてきたように、わたしたちはEVを通じて新しい「文化」を生み出していかなければいけないのです。

EVがガソリンエンジン車に比べて航続距離が短いとか、充電に時間がかかることを懸念するよりも、EVを快適に使いこなすための暮らし方や社会システムをポジティブに工夫していくことが大切です。

今後、私たちは脱石油、脱原発、そして自然エネルギーへというステップに、勇気をもって歩まなければなりません。自然エネルギーによる電気で走れるEVであれば、私たちはかろうじて自動車という移動手段を確保し続けることができるのです。

福島の原子力発電所は、余震や津波の心配が過ぎ去り事故の危険が収まってからも、長期間の運転停止や廃炉を余儀なくされることでしょう。でも、感情的に反対するばかりでは、被災地をはじめとする広範囲での電力不足問題がいたずらに長期化してしまうばかりです。関係機関のみなさんには、誠実に事態に取り組み、国民に説明して、一日も早い電力供給態勢の復旧をしていただきたいと願っています。

私自身、原発そのものには積極的に賛成ではありません。しかし、今は自分にできることをやるしかないのです。現状は受容しつつ、さらなる未来を見据えて地道に活動を続けていきたいと思ってます。

2011年3月14日
日本EVクラブ代表:舘内端(談)


※この記事は、2011年3月15日発行のメールマガジン『電気自動車で世界を救え!』の緊急コラム(号外)として執筆されたものです。